決算委員会の質問内容です。 

参議院議員 牧山ひろえ 決算委員会 2008.5.12
決算委員会 2008.5.12 参議院議員 牧山ひろえ
○牧山ひろえ君
民主党の牧山ひろえでございます。大臣、よろしくお願いいたします。
 今日はぜんそくの問題を中心に議論したいと思います。特に、東京大気汚染訴訟の和解によって結果としてぜんそく治療に地域間格差が生まれつつあることを懸念する立場から、本来、医療格差の解消は国が音頭を取って省庁横断的に各省庁が協力し合って進めるべきではないかとの主張をしていきたいと思います。
 また、四月二十一日に衆議院の決算行政監視委員会における笠議員への質疑応答についても明らかなとおり、この件についてはまだまだ不透明な部分が多くありますので、今日この場での御答弁は再度同じ内容の御返答とならないようくれぐれもお願い申し上げます。
 さて、環境省はぜんそくに関しての認識、見解には明快な答えがない、あるいは原因を特定できない状況だと私は思います。もちろん、私たちが生活する環境においては、室内にはほこりとかちりなどのハウスダスト、室外では排気ガスなど目に見えないいろいろな汚れが潜んでいると言えます。また、このぜんそくの発症については、私もいろいろと調査してみましたけれども、経済産業省ではぜんそくと工場などの排気ガスなどとの因果関係に一切触れておられませんし、国土交通省でもぜんそくと自動車等の排出ガスのかかわりを認める公式発言はしておられません。
 このように、本来、国民の健康を守るべきである国の機関がそれぞれ存在するにもかかわらず、それぞれの機関が口をそろえて原因は特定できないとする見解で同じような発言をしているのです。これでは国民の生命を守るべき立場の国、政府は余りにも無責任ではないでしょうか。
 こうした観点も含めて、ぜんそくの医師を十年来務めていらした大臣にお伺いしたいと思います。
 私は、ぜんそくの原因が自動車の排気ガスに含まれるであるとか経済活動で生じる様々なガスなどに起因するものと考えておりますが、環境省など国の見解ではぜんそくの原因は複数あるとしていますが、少なくとも自動車等の排気ガスによるところが大きいのではないかと私は思いますが、大臣はいかがお考えでしょうか。

○国務大臣(鴨下一郎君)
 今先生お話しになったように、ぜんそくは私は様々な原因で起こるものだろうというふうに思っておりますし、特に遺伝的素因のようなものが大きく影響しているというふうに、私も昭和五十年に医者になってから約十五年ぐらいぜんそくを中心に診ておりましたので、そういうような印象は持っております。
 ただ、これ国の認識につきましては改めて申し上げますけれども、昭和三十年代から四十年代には大気汚染レベルの高い地域における気管支ぜんそくを始めとするいわゆる慢性閉塞性肺疾患、COPDと言われますが、それの有症率の増大は主として大気汚染による影響が考え得ると、こういうようなことでございました。
 ただ、しかしその後、大気汚染が改善して、昭和六十一年の中央公害対策審議会の答申におきまして、現在の大気汚染の状況下においてはその影響が気管支ぜんそく等の有症率を決定する主たる要因には考えられないと、こういうふうにされたわけでございます。その後に、環境省では三歳児及び六歳児を対象として環境保健サーベイランス調査、これを実施しておりますけれども、大気汚染物質とぜんそくとの関連性に一定の傾向は認められないというような知見を得ておりまして、現在の大気汚染がぜんそくの主たる要因とは考えていないというのが現状でございます。
 現実にも様々な患者さんおいでになりますけれども、私は、やはり主たるところは素因であるアレルギー素因と、加えて、一番アレルゲンで陽性率の高いのはハウスダストあるいは杉、ヒノキ等の花粉、こういうようなものがアレルゲンとしては非常に大きいわけでありまして、そういうようなこと等を加えて気道の過敏性、こういうようなものを有している方々がぜんそくになりやすいと、こういうようなことでもありますし、間接的には、例えば家の中でのいわゆるシックハウスのような原因物質、さらには大気汚染というのも増悪因子の一つとしては考え得るんだろうと思いますけれども、直接的な発症に今の段階の大気汚染がかかわるというようなことは一般的ではないだろうというふうに考えております。

○牧山ひろえ君
それでは大臣は、例えば大都市圏ではぜんそく患者が多く郊外ではぜんそく患者が少ない傾向にあるということを、実際の診療をおやりになって肌で感じたことはないんでしょうか。

○国務大臣(鴨下一郎君)
 今はもう、地方の場合もそれから大都市の場合もほとんど多分有症率については有意差はないんだろうというふうに思います。ただ、都市部に多いというようなのは様々な原因があって、私は特に心因性のぜんそくを中心に診ていたものですから、例えば運動の量だとか学校で遊ぶ遊び方だとか、そういうようなことの基礎体力だとか、それから室内でゲームだとか何かをやって余り体力が順調に鍛えられていないようなこと、こういうようなことも含めた総合的な部分のライフスタイルに影響するということは多分あるんだろうというふうに思っておりますけれども、大都会の大気、そして地方の空気、こういうようなものの影響だけで、都会と言わば地方、こういうようなことでぜんそくの有症率に差が出ると、こういうようなことは私の経験からはちょっと考えられないなというふうに思います。

○牧山ひろえ君
大臣、では、私が調べたところによりますと、平成十九年の文部科学省の学校保健統計調査でも明らかな数字が出ていますけれども、どうも人口密度が高く自動車が多い地域においてはぜんそくが多いという統計が明らかに出ております。それでもやっぱり全く自動車などの排気ガスとぜんそくは因果関係はないとお思いでしょうか。

○政府参考人(石塚正敏君)
 ぜんそくの要因としましては、先ほど来大臣の御答弁にございますように、ぜんそくは非特異的な疾患でございますから、遺伝的な素因のほかに、アレルギー素因や喫煙、ダニといったようなアレルゲンですとか大気汚染ももちろんかかわりはあろうかというふうに言われております。
 環境省が、三歳児それから六歳児を対象として行っております環境保健サーベイランス調査、この調査の中で、ぜんそくの発症率についてどういう因子が特に強く影響しているのかという統計を取りましたところ、一つには性別、これは男の子であるということ、それから母親の喫煙習慣、本人ないし親のアレルギー疾患の既往歴といったようなものが統計学的には意味のある関連性を示しているということでございます。これらの因子がない場合と比較しまして、これらの因子を有するお子さんについては一・四倍から二倍程度のぜんそくを発症しやすいという結果が示されているところでございます。
 なお、先生御指摘のように、都市部と郊外とでどうかというお話でございますけれども、このサーベイランス調査によりまして、大気汚染濃度が高い地域での発病率といったものを統計学的に見てみますと、大気汚染濃度が高いほど発症率が高くなるというような関連性を示すデータは得られておりません。

○牧山ひろえ君
私が見る限りでは、文部科学省の調査ではやはり人口密度が高く自動車が多い地域にぜんそくが多いということなので、これでやっぱり大気汚染とは因果関係がないというふうには言えないと思います。
 さて、先日、笠議員が衆議院で東京大気汚染訴訟に関しての質問を行いましたが、大臣も御出席であったと思います。その議論の中で大臣は、時の総理が政治的に決断されたと理解していると御答弁されたと思いますが、その後、笠議員からは、独立行政法人環境再生保全機構の基金から六十億円の予防事業費を費目として東京都に資金が拠出されるのは納得できないという指摘がありましたが、私も全く同じ意見であります。
 いわゆる予防事業には健康相談と健康診査という項目があります。通常、医療機関に行けば、処方せんのお薬などは院外や院内でお支払いしますけれども、それ以外の費用に関してはおおむね健康相談ですとか健康診査として支払われる費用であり、これは一般的に医療費と理解されております。このように、やはり予防と医療との垣根はグレーなゾーンが存在しているように思いますし、明確な判断基準がないのではないかと懸念が残る次第でございます。機構の基金から払った六十億円が医療行為に使われないようどなたが監視するのか、また予防事業として活用した実績をどのように報告するのか不明確です。
 私はこの懸念に関して御意見を伺いたいんですけれども、東京で例えばぜんそくに対して健康相談をしたり健康診査をする場合は、これは医療費ではなく予防事業であり、同じことを川崎でもしやった場合はこれを医療費とみなす、そんなことが起きてしまうのではないかというふうに私は心配するんですが、大臣の御意見はいかがでしょうか。

○政府参考人(西尾哲茂君)
 今先生からのお尋ねは、公健法によります基金で行います健康相談とか健康診査というものと医療費が混合しないかという点だと思いますが、これは今回の和解におきます東京都への六十億円の拠出ということの以前から、元々公害健康被害補償法におきまして、これは認定患者さんには医療費をお出しする、補償するという制度がございます。
それと、一方では、健康被害を予防していくということで基金から予防事業を行うというのがございまして、これは東京都の各区や川崎や大阪やそういうところ、今までの旧指定地域全部そうでございまして、それぞれは別に運用されておりまして、健康相談とか健康診査は公害健康被害補償法によるいわゆる医療費として支払われるものとは別途のものということで川崎市等においても行われていたということでございます。

○牧山ひろえ君
やはり、ぜんそくを持つ患者さんには均等に公平に国が面倒を見るべきだと思いますが、もとより、憲法の第二十五条では、国は、すべての生活部面について、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないと規定しています。ぜんそくの発症原因が問題なのではないと思います。ぜんそくに苦しむ患者の方々やその方々を抱える各自治体への手厚く公平な制度をつくっていくのが国の仕事だと思います。ですから、自治体支援の公平性から、今年度から創設された自立支援型公害予防事業の助成対象を広げるなど一層の取組が必要であると考えますけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(西尾哲茂君)
 まず、私どもの環境省でございます。大気汚染に起因することでぜんそく等の呼吸器疾患にかかった方々を救済をしていくという使命でございまして、これは公健法に基づきまして、認定患者の方につきましては医療費のほか障害補償的な費用も含めて、これは指定地域、そこで認定された患者の方にひとしく行っております。
 それから、公害健康被害基金ということでございます。基金の中には、これは特定の方を対象とするということではございませんが、予防のために、地域に対して相談をするとか、あるいは保健婦さんに回ってもらうとか、あるいはぜんそくの方をプールでリハビリをやるとか、そういうことを地域でやっております。これにつきましても各地域、平等に行っているということだと思っております。
 これに加えまして、先ほどから、この公健法でカバーされないぜんそくというのがあるんじゃないかと、こういうことでございます。これにつきましての原因につきましては、今までの議論にありましたように、これが大気汚染の原因なのかどうか、これにつきましては今後とも調査を待たなければならないところでございますけれども、この点につきましては地域地域でいろいろな工夫してなされていると、こういうことではないかと思いますので、これはそれぞれの地域の実情に応じて行われるべきだということでございます。
 しかし、さりながら、東京大気汚染訴訟の経過でございましたように、これからも予防をしていくということについてもっと充実していこうということでございますので、自立支援型の事業というものにつきまして本年度から始めることといたしました。その内容につきましては、これは東京以外の川崎その他関係の自治体ともよくよく相談していきまして、この自立支援型事業、これが効果を上げるように運営していきたいというふうに思っております。

○牧山ひろえ君
今調査というお話がありましたけれども、環境省は平成十七年度から、自動車やトラックの排出ガスによる呼吸器への影響をそらプロジェクトとして調べておられますけれども、そろそろ中間報告の時期だと思います。学童、幼児、成人の調査、どんなデータでも構いませんので、このそらプロジェクトの中間報告あるいはデータを公表してください。私はこのデータを知りたいがためにあえてゴールデンウイーク前に本日の質問通告をしておりますので、十分な準備期間があったと思いますので、よろしくお願いいたします。

○政府参考人(石塚正敏君)
 局地的な大気汚染についての調査というお尋ねでございます。  この調査研究につきましては、疫学を始めとする各般の専門家によります意見を踏まえつつ調査事業を実施しているところでございます。
 専門家の見解によりますと、この調査というものはまだ調査を継続途上でございます。この調査途中で解析に入るということになりますと、一つには、少ない対象者のデータによって評価をすることとなりまして統計学的な検出力が不足した状態で解析を行うということになってしまいます。また、調査途中の解析結果というものを調査対象者が知った場合、これはいわゆるアナウンス効果とでもいいましょうか、調査への協力率や調査への回答内容というものに偏りを生じるおそれというものがございます。これは統計学的なバイアスと呼んでおりますけれども、こうしたバイアスが掛かることによって、多くの方々に協力いただいておりますこの調査の信頼性というものにも多大な影響が出るという専門家の指摘をいただいているところでございます。
 私どももこの幹線道路の大気汚染と呼吸器疾患との厳密について、厳正かつ公正な調査結果というものを得るために、この専門家の意見に従いまして中途での結果の公表を控えているというところでございます。

○牧山ひろえ君
先日、調査には五年間必要だということでお伺いしましたけれども、今もう二年以上たっているということで、今の段階で分かっていることをやっぱり明らかにして、本来この調査は何のためにあるかということを考えていただきたいなと思います。今現にこの調査の結果をもし聞けばぜんそくが進まなくてもいいような方もいらっしゃるでしょうし、またやっぱり知ることによって防げる害は多いと思いますので、なぜかたくなに五年という調査期間を守る必要性があるのか全く私には理解できません。
 最後に、私はちょっと大臣にお願いしたいことなんですが、ぜんそくで苦しんでいる全国の方々が、日本全国の中で公平で平等な医療が受けられるということを皆さんの前で、この場でお約束いただきたくお願いして、私の質問を終わらせていただきます。

○国務大臣(鴨下一郎君) 先生おっしゃるように、特に子供のぜんそくは多分ここ数十年の間では増加傾向にあると思います。
そういう中で、学校へ行く直前に例えば発作が起きたり夜に発作が起きたりというようなことで、大変本当にお気の毒な苦しい思いをしている子供たちたくさんいるわけでありますから、各地域できちんとその人たちが、言わば治療が受けられるようにそれぞれの、これは環境省だけではできませんけれども、文部省あるいは厚生労働省も含めましてしっかりと取り組むと、こういうようなことについては先生おっしゃるとおりでありますから、我々としても、先ほどそらプロジェクトの話ございましたが、もし明らかに何らかの形で因果関係のあるようなものがありましたら、中間報告的にでも早め早めに公表するというようなこともあってもいいというふうに思っております。
 ただ、今のところ全体に見ますと、有意差というようなことについてはなかなか明確なことは申し上げられないというようなことも今答弁させたとおりでございますけれども、そういうふうに、とにかくすべての主体がきちんと取り組んで、ぜんそくで困っている子供たち、特に学童のぜんそく発作、こういうようなものが全国で平等にきちんと治療が受けられるような体制、環境省としても取り組んでまいりたいというふうに思います。

○牧山ひろえ君
ありがとうございました。