ODA特別委員会の質問内容です。

参議院議員 牧山ひろえ ODA・政府開発援助等に関する特別委員会 2008.6. 6
ODA・政府開発援助等に関する特別委員会 参議院議員 牧山ひろえ
○牧山ひろえ君

高村大臣、よろしくお願いいたします。

 質問に先立ちまして、今日の私の質疑に関連して、日本の母子手帳の八か国語版、それとパレスチナとインドネシアの現地版母子手帳をお回しさせていただきますので御覧ください。そして、今回、今日お配りしますこの資料は私が作成したものでございます。

 さて、TICADWの開催、大変お疲れさまでございました。御関係者の皆様の御尽力により、今回の横浜宣言が高らかにうたわれたことに敬意を表したいと思います。

 私自身も会場に何度か足を運ばせていただきまして、三月二十七日の外交防衛委員会でも申し上げましたとおり、微力ながら草の根の議員外交をしてまいりました。カメルーン、ザンビア、ベナン、AUの方々など、多くの方々と意見交換をさせていただきまして、日本のアフリカ支援の在り方について率直な御意見を賜りました。多くの方が声をそろえておっしゃるのは、やはり円借款も大事でありますけれども、グラント、無償資金協力をもっと増やしてほしい、また自国の経済成長のために、先ほど米長議員のお話にもありましたように、日本企業の投資を積極的に推進してほしいというものでした。TICADW期間中の各種報道で取り上げられましたとおり、やはりアフリカ諸国は経済成長のための投資を期待しているのが実情だと思います。この点については後ほど時間がありましたら伺いたいと思います。

 まずは大臣にお伺いしたいのは、母子健康手帳のアフリカへの普及についてです。この母子健康手帳については私が終始一貫して大臣を始め各方面に提案し続けてきたものでして、アフリカにおける乳幼児の死亡率を低減させる効果的な手段として期待が持てるものだと思います。

 五月二十八日、TICADWの開会式で福田総理が、母子健康手帳の考え方をアフリカに広めることが有意義であるとスピーチされておられました。是非高村大臣からこの場で具体的な目標、つまり導入までの期間や普及させる対象地域などを含めて計画的に母子健康手帳を広める旨の御発言をいただきたいのですが、いかがでしょうか。よろしくお願いいたします。

○国務大臣(高村正彦君) 国際社会におきまして最も脆弱な立場にある女性と子供に焦点を当てた母子保健の改善の重要性が指摘されており、TICADWで採択された横浜宣言においてもその重要性が確認されているところでございます。

 御指摘の母子健康手帳でありますが、健康一般についての母親の知識を高め、医療従事者側で母子の健康履歴を把握することにより、妊産婦死亡率、乳幼児死亡率を大幅に改善させることができるという点で優れた制度であると認識をしております。こうした観点から、我が国はこれまでにインドネシア等のアジア諸国やパレスチナで母子健康手帳の普及に取り組んでおり、その考え方をアフリカに広めることは有意義であると考えております。

 母子健康手帳は、一方で保健所の設置及びアクセス、保健医療従事者の育成といった保健システムの向上や母親の識字率の改善と相まってこそ効果が発揮されるものであります。アフリカにおいては、このような協力を進める中で母子健康手帳の考え方を広めていきたいと、こういうふうに考えているわけであります。

 アフリカ連合の議会の代表者、女性の方でありましたが、私自ら母子健康手帳を渡しまして、こういうものがあるんだ、アフリカで広めたいから是非手伝ってくれと、こう申しました。申しましたというか、これは実は夕食会のときにそういう話をしたら、是非それの本物を欲しいと言われたので、翌日の会談のときにそれをお渡しして、是非これはこちら側サイドだけが幾らやろうと思っても向こう側で受け入れるという感じにならないとなかなか難しいんですが、その方もちょっと今名前忘れて大変失礼なんですが、そのAU連合の議会のトップの方、この方も是非それを広めたいということを言っておられましたので、協力して進めていきたいと、こういうふうに思います。

○牧山ひろえ君
ありがとうございます。

 私も機会がありまして、ザンビアの大臣とカメルーンの大臣にもこの母子手帳を手渡してまいりました。この私が手にしておりますのが日本の母子健康手帳ですが、これは母子保健事業団の方からお借りしてまいりましたものですけれども、日本にいらっしゃる外国人向けのものでございます。英語はもちろんのこと、本日私が持ってまいりましたサンプルですけれども、八つの言語版があります。日本に住む外国人にとっては大変に貴重な手帳であると思います。また、おとといJICAの方々からいただきましたパレスチナとインドネシアの現地版も回覧していますので、御覧いただければと思います。

 さて、この母子健康手帳をそのままアフリカに持っていけば効果が上がるかといえば、やはり大臣が先ほどおっしゃいましたようにそう簡単ではないと思います。先ほども述べましたけれども、私自身、TICAD会場でアフリカの要人らと意見交換をさせていただきましたわけですけれども、やはり女性の教育レベルが大変低く文字の読み書きができないとの意見が多くありました。つまり、こうした現状をとらえまして、先ほど御紹介しましたインドネシア語版のように、現地の識字率、宗教、習慣などに配慮して、イラストなどをたくさん使って母子健康手帳を編集してアフリカ諸国へと普及させていくべきだと思います。

 もちろん母子保健の向上のためには、母子健康手帳の活用を推進させるための各支援策がセットとなった保健システム全体の向上に資する環境整備をセットにして考えなくてはいけないと思っております。これらの総合的な支援があればこそ、結果としてこの母子手帳が最大に生かされると思うんです。

 そこで、この母子健康手帳のアフリカへの普及に向けて、JICAの御専門の方と具体的な話をしていきたいと思います。と同時に、高村外務大臣にそれぞれの分野において具体的な支援策をお伺いしたいと思います。

 この図で示すとおり、第一に、母子健康手帳の内容をまずは妊産婦あるいは母親に説明するスタッフが必要だと思うんです。日本では、御存じのとおり母親学級というシステムがありまして、妊娠中から子育てに至るまで、いろんな妊娠中ですとか出産後の各段階で説明をいただく場があります。私自身も二人の子供を育てておりまして、この母子手帳を活用させていただいていますけれども、やはり詳しい方に母子手帳の使い方またそれに伴う情報を提供してもらえないとこの手帳の良さが生かし切れないと思います。

 まずこの点に関しまして、JICAの方から何か御意見がございましたらお伺いさせていただきます。

○参考人(上田善久君) お答えいたします。

 まず、JICAの保健医療分野の事業でございますけれども、御承知のようにミレニアム開発目標に掲げられております乳幼児死亡の削減、妊産婦の健康改善、感染症の蔓延防止、こういったことを目的に事業を展開しておりますけれども、その基本的理念がいわゆる人間の安全保障でございます。

 これは、途上国でサービスを提供する行政サイド側における組織、制度、人材の強化と、一方それを受け取る住民、コミュニティー側における啓発、自己管理、意識向上、能力強化、こういったことを併せて行ういわゆる双方向のアプローチでの活動でございます。  御指摘の母子保健手帳といいますのは、まさに双方向、保健行政と住民をつなぐ非常に重要な手段でございまして、そういう意味で途上国で包括的な母子保健事業を行う際の導入点にもなる、多彩な母子保健活動をまとめるプラットホームにもなるということで活動を強化しております。

 御指摘にございましたように、手帳そのものはやはり利用者がその価値をしっかりと理解し、しかるべきツールとして活用されなければ単なるノートにすぎません。そういう意味では、母子ケアに携わります医師、看護師、助産師等の医療従事者が手帳の意義、その専門的な内容を適切に利用者に説明し活用を促すことが求められますし、一方でその記載されている各種の保健医療サービスを的確に医療従事者が提供しなくてはいけないということで、そういう意味では非常に高度な知的な活動ということになります。

 JICAは、そういう意味でこれまで十か国で母子保健関連の技術協力を展開しております。その中で、母子保健の最前線で活躍する医療従事者の技能向上それから制度整備、政策策定に関与する行政官の技能向上、こういったことを日々の実務指導や助言を通じて支援しておりますが、さらにこうして養成された現地指導者による現地指導、現地研修という形でトータルな人材の育成を図っております。それに加えまして、中堅以上の関係者であれば本邦研修を実施する、さらには母子保健に関する先ほどの親子学校みたいなものを展開したり、いろんな形で人材育成の底上げ、そして実際の普及に努めているところでございます。

○牧山ひろえ君
大臣、この説明というプロセスも組み入れる必要があると思いますが、今のお話を受けて御意見を伺わせていただきたいと思います。

○国務大臣(高村正彦君) 今の質問、今の御説明のとおりでありまして、外務省としてもそのようにバックアップをしていきたいと、こういうふうに考えております。

○牧山ひろえ君

ありがとうございます。

 次は、保健医療システム、医療機関の充実です。

 先ほども少し触れられておりましたけれども、まさに病院があり、医師、看護師がおり、そして医療機器がそろっていてこそ母子健康手帳を活用できるのだと思います。

 二十八日の総理のスピーチでも言及されたように、保健医療の人材育成が急務であると考えますが、この点について、JICAでは現状を踏まえ、実際にそういった機関というか病院とかスタッフについてもう少し詳しくお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。

○参考人(上田善久君) 人材育成に関しましては、先ほど御答弁しましたように、現地における実施、指導、助言等を通じて指導者を育成し、さらにその人たちを通じた研修ということをやっております。

 御質問で施設とかそういったものについてでございますけれども、これも御指摘のとおり施設や設備の整備、これがなければ何も機能できません。末端の保健所も必要ですし、さらに帝王切開等の緊急産科対応が可能なそういった医療施設の設備それから妊婦さんの搬送体制と、こういったものがシステムとして、物理的にもシステムとしても強化されることが必要でございます。

 こういった点に関しましては、我々保健事業をやる際にいわゆる無償資金協力事業による保健医療施設の支援それから資機材の支援、こういったものと連携しながら効果的に物理的にも組織的にも能力が強化されるよう事業展開を図っているところでございます。

○牧山ひろえ君
ありがとうございます。

 加えて申し上げさせていただけますならば、母子保健の中での予防接種として、例えばワクチンを接種するためのワクチンそのもの、またワクチンを注射できる人材が必要だと思います。予防接種の観点からJICAとしての御意見を伺えればと思います。

○参考人(上田善久君) お答えいたします。

 冒頭述べましたとおり、母子手帳の普及というのは、やはり包括的な母子保健サービス強化の一環として実施されるべきものというふうに考えております。

 途上国の予防接種の普及でございますけれども、これはユニセフを始め多くの援助機関が支援を行っております。日本政府もワクチン自体も支援しておりますし、さらにワクチンを運ぶための保冷機材の供与、こういったものを積極的に実施しております。

 そういう意味では、JICA保健医療分野における事業全体として、やはり常に現場で適切に予防接種が実施されるような関係者に対する技術協力、これを常に念頭に置きながら実施しているところでございます。

○牧山ひろえ君
ありがとうございます。

 ではもう一点ですが、識字率に関して伺いたいと思います。

 一人の人間を育てるという大きな仕事の中で母子手帳はその指南書ですから、母子健康手帳を持つことにより母親が字を読もうとする意欲を持つかもしれませんし、今まで教育を受ける機会がなかった女性の方々も、必要に迫られて字を読もうとすれば必然的に識字率が向上されると思います。

 谷岡議員と意見交換をしたんですけれども、発展途上国では特に小さい女の子とか女性の教育が深刻な状況だと伺っております。アフリカを始めとする多くの発展途上国では、女性への教育が十分に行き届かないばかりか、女性の社会進出が認められていないケースが多くあります。子育てをするために母子手帳を読めなくてはいけない。そのためにもやはり女性の教育は重要だと思うんです。

 JICAとして、これまでの経験を踏まえて教育の必要について、特に女性の、女の子の教育についての厳しい状況を踏まえて御意見をいただければと思います。

○参考人(上田善久君) 直接教育関係のプロジェクトを御説明するわけではございませんけれども、おっしゃるとおり母子手帳というものはそういった識字率のあるところでなければ機能できないということも事実でございます。

 既に私どものこの母子健康手帳の普及が進んでいるインドネシア、パレスチナからの現場からの報告でございますけれども、議員御指摘のとおり母子手帳が女性自身が自分の健康についてしっかりと管理し学習する意欲を喚起するきっかけになっている。冒頭申し上げました人間の安全保障というのは、上からのプロテクションと下からのエンパワーメント、両方を結ぶものなんですけれども、まさにそのエンパワーメントを発揮するツールにもなっております。

 さらに、副次的な効果でございますけれども、母子手帳が家庭に持ち帰られることにより、男性パートナー自身も妊婦ケアについて意識を高め、育児への参加を促すきっかけにもなっておりますし、また家庭内で例えば思春期層のお姉ちゃん、お兄ちゃんがいた場合には、そういった子たちに対する情報提供ということにもなっております。

 そういう意味では、やはり総じて女性の家庭内での学習の意欲を喚起するきっかけになる道具であるということは恐らく確かだというふうに考えております。

○牧山ひろえ君
ありがとうございます。

 TICADWが成功だったと言えるように、政府は積極的に横浜宣言で確認された母子保健手帳の充実を実現していただきたいと思います。日本独自の母子手帳ですから、アフリカに是非普及させていくべきだと思います。

 母子手帳と環境整備については卵が先か鶏が先かというお話にもなりますけれども、子供たちの健康と命を守るためにはどこからか始めなくてはいけないと思います。そういった意味で、この母子手帳がアフリカにおいて子供たちの命と健康を守るきっかけとなればと願っております。

 ここで、やや視点を変えた議論をしてみたいと思います。

 私は、三月二十八日のODA特別委員会で高村大臣にあることを御提案申し上げました。それは、TICADWの開催を契機とした平和構築の在り方です。つまり、日本が音頭を取ってトラブルや対立問題を抱える諸国の仲裁役になって未来志向の話合いを通じた平和提案をしてみてはいかがでしょうかというものです。大変うれしいことに、五月三十日、高村大臣がホスト役になっていただいて、飯倉公館で北東アフリカの情勢についての意見交換会がありました。深刻な人道危機が続いているダルフール紛争などを抱えるスーダンとスーダンの周辺諸国六か国の関係者らを御招待しての会合であったと聞いております。

 高村大臣、日本がリーダーシップを取り国際平和の構築に向けた取組をしていくことは大いに良いことだと思いますが、今後継続的にこうした取組をしていく予定とのことですが、アフリカに限らず広く世界を見渡して同様の取組をしていくべきだと思いますが、いかがでしょうか、お答えいただければと思います。

○国務大臣(高村正彦君) TICADW終了直後の五月三十日に、私はアフリカでもいまだに紛争が残存する北東アフリカ地域諸国及び関連機関を招いて北東アフリカ地域連携協力会議を主催いたしました。これは、これら諸国間の相互理解、信頼醸成を促進し、紛争予防、紛争の早期解決を目指す上で、まずは域内諸国間の経済、文化面等での協力を推進していくことが現実的なアプローチであるとの考えに基づき開催したものであります。

 チャド、エリトリアなどはあいにく不参加でありましたが、エジプト、スーダン、ケニアなど七か国の外相、閣僚等が、またピン・アフリカ連合新委員長など三国際機関の代表が参加したことはそれ自体大きな成果だと考えております。また、会議においては、北東アフリカ地域における域内協力の在り方について各国はそれぞれの立場を述べる中で、いずれも更なる経済発展、相互理解の促進を念頭に置いた域内協力の重要性を強調したことも重要な成果と考えております。今後も、適当な機会をとらえて本件会議を開催し、更に突っ込んだ意見交換を行うことを通じて、少しでも当地域の域内協力の深化に貢献していきたいと考えております。

 日本は、平和協力国家ということを言っているわけでありますから、ここ以外でも必要であればこういうことを随時やっていきたいと、こういうふうに考えております。

○牧山ひろえ君
是非お願いいたします。

 先ほども申し上げましたとおり、私自身、TICAD開催中に多くのアフリカ諸国の要人と意見交換をする機会をいただきました。最初に申し上げましたとおり、私がTICADで出会ったアフリカの要人が皆さん声をそろえておっしゃっていたのは、やはり円借款ではなくてグラントをもっとそういった意味で協力を増やしてほしい、また自国の経済成長のために日本の投資を積極的に推進してほしいという意見を多数いただきました。

 特にザンビアのムタティ商務・貿易・産業大臣からは、日本企業がザンビアに投資をしようとしても、あらゆるリスクを心配して投資してくれないという深刻な状況のお話を伺いました。ムタティ大臣からは、日本政府がザンビアに投資をしようとしている日本企業に一種の保証システムを提供して、日本企業がザンビアに投資しやすくすべきではないかと、そういった御意見もいただきました。

 確かに今まで一度も投資をしたことがない国への投資は企業にとって慎重にならざるを得ないと思いますけれども、豊富なレアメタル資源を持つ国々が多く存在するアフリカにおいては、政府がある程度のリスクについて保証して企業の投資を促進すべきであると思います。

 この言わば政府によるアフリカ投資拡大に向けた保証についてどのように進めていくのか、具体的な御提案がありましたらお答えいただければと思います。参考人の方でお願いいたします。

○政府参考人(廣木重之君) お答え申し上げます。

 アフリカへの投資の関係でございますけれども、我が国は日系企業のアフリカ進出に対するアフリカ側の高い期待を受けまして、TICADにおいて福田総理より、今後五年間で我が国の対アフリカ投資を倍増させるように政府、民間で共同作業を行っていくということを発表いたしました。

 具体的には日系企業がアフリカで事業を展開しやすいように貿易保険を充実させますとともに、国際協力銀行に新たにアフリカ投資倍増支援基金というものを創設いたしまして、こういったことで今後五年間で二十五億ドル規模の金融支援をしていこうという方針を打ち出したわけでございます。それに加えまして、またこの夏以降に政府要人と経済界の合同ミッションをアフリカに派遣するといったことも検討しております。

 このような形で日本企業のアフリカへの投資を支援してまいりたいというふうに考えております。

○牧山ひろえ君
時間となりましたので、質問を終わらせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。